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大阪高等裁判所 昭和41年(く)107号 決定 1967年1月14日

少年 Y・H(昭二三・三・三生)

主文

原決定を取消す。

本件を神戸家庭裁判所に差戻す。

理由

本件抗告の理由は右少年作成の抗告申立書記載のとおりであつて、要するに、少年は父の姉の委託保護をうけることと思つていたところ少年院送致の決定をうけた。これではあまりにも不当であるから原決定取消の上さらに相当な裁判をうけたいというにある。

よつて記録ならびに当審調査の結果を総合すると、本件非行の性質、態様は必ずしも軽徴とはいえないが、少年は中学卒業後東京、尼崎、神戸等で働いているうち神戸市葺合区の○○組に住込み、刺青などをしてやくざの仲間入りをしていたが、昭和四〇年七月万引をしたため神戸家庭裁判所送致となり、裁判官に対し、「家に帰つてまじめに両親を助けて仕事に励むこと、都会にあこがれて神戸大阪などに出てこないこと、いれずみはとるようにしてヤクザ的な考え方に走らないこと」を誓約し、母につれられて郷里鹿児島県へ引取られていつたが、家庭にあつても農業の手伝等もあまりせず、遂に昭和四一年一〇月再び神戸に出てきて○○組に入り放縦な生活をしているうち、本件非行に出たもので、少年には自力更生の気力が乏しいきらいが認められなくはない。また少年の郷里における家庭では農業の傍ら母は大島つむぎの内職などしており、少年は都会をあこがれて農業を嫌い、○○組との関係も断絶したとは認め難いので、少年に対する原決定の処分も首肯できないことはない。

しかし、少年は本件以外前記の非行が一件あるだけであつてしかも不処分となつていること、前記組とのつながりも必ずしも断ち難い程深化していないこと、労働意欲も認められ、社会生活への適応性もあり、著しい性格的偏倚も認め難いこと、また本件非行もそれほど悪質とは思われない上、当審直接の調査によると少年は真面目な性格であつて改悛の情も顕著であることなどの諸事情がうかがわれ、少年の母の兄夫婦である○島○一、同○子は少年を引取つて監護の責を果すと誓つており、また少年の従兄弟にあたるY・Tは目下新宮市にあつて建材業者の貨物自動車運転者として雇われ月収五万円程度を得、従前少年と殊に親しかつた関係から少年を引取つて自己の自動車助手として正業につかせ、保護監督することを申出ており、少年も同人をしたつて同人の許で一生懸命に働き二度と非行をくり返さないことを誓つているのである。これらの事情を考えると、今直ちに少年を少年院に送致するよりは、むしろ勤労を通じて真面目な生活態度を体得させるとともに組とのつながりを断ち切るため、在宅保護として最も適当な者に少年を委託などして今暫く少年の行動を観察し更に適当な措置をとるのが相当と考えられるから、原決定は取消を免れず、本件抗告は理由がある。

よつて少年法三三条二項により原決定を取消し、本件を神戸家庭裁判所へ差戻すこととする。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山田近之助 裁判官 藤原啓一郎 裁判官 瓦谷末雄)

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